『百二十の見えない都市』第二期予約購読者の皆様
拝啓
いつもお世話になりありがとうございます。
皆様にご参加いただいている磯崎新先生の『百二十の見えない都市』第二期の企画につきましては、先日お知らせした通り、遅延を取り戻すべく、磯崎先生がエンジン全開で制作に取り組んでおられます。ご報告が遅れましたことを、お詫び申し上げます。
別紙の植田実編集長からの書簡の通り第二期の構想が大きく変更になりました。もともと10年かけて『百二十の見えない都市』を描く構想の中で、磯崎先生の頭の中には、既に全体の120都市の全貌は見えておられるのでしょうが、その中のどれをいつ描くかという順番の問題は、磯崎先生のいまの状況と密接不可分に結びついています。ここ数年のダイナミックな活動全体を反映した形で、第二期の内容が変更になったことを、先ずはご報告致します。
加えて、購読者の皆さんには嬉しい変化もあります。
第一期募集時の挿入作品2点の予定サイズは32×25cm、用紙サイズは二つ折り32×50cmでした。ところが、皆様のお手元にお届けした第一期作品は、作品も大きくなり、用紙も三つ折り40×120cmと、大幅にバージョンアップしたことはご承知の通りです。
ところが、今回の第二期の作品制作においては、挿入作品2点(銅版)のほかに、エッセイと絡んでさらに大判作品(シルクスクリーン 用紙サイズ40×120cm!)が1点追加されることとなりました。従ってお届けする作品は一都市につき3点、12都市で36点という大画文集になります。
コストのことを考えると版元としては頭の痛い状況ではありますが、それだけ磯崎先生が燃えておられる証左でもあり、皆様と素晴らしい作品群の誕生の喜びを分かち合いたいと思っています。
制作は、12都市分が同時進行しています。刷りやエッセイの執筆状況にもよりますが、画文集のお届けは数都市分づつにわけて行なう予定です。第一回の納品時期についてはもう少しお時間をいただきたく、宜しくご了承のほどお願い申し上げます。
事務局通信が中断し、いまの磯崎先生の活動のご報告ができず、申し訳ないと思っておりますが、先日ご案内の通り、近々誌名を『磯崎新研究(仮題)』と改め、植田実編集長のもと刊行を再開する予定です。
◆ひとつだけ、最近のニュースをご紹介させていただきます。
磯崎先生は近く、下記の展覧会のためにモスクワに赴かれます。
「RE-RUINED HIROSHIMA」 モスクワ建築博物館(5 Vozdvizhenka str., Moscow, Russia) 会期:2005年6月25日〜約一ヶ月(予定) 主催:日露文化ファーラム |
展覧会主旨:
日本とロシアの文化交流の発展を図るため、2004年に「日露文化フォーラム」が創設
されました。その関連事業として、2005年より建築およびパフォーミングアートの分
野でのイベントが日本とロシアにおいてそれぞれ隔年で行なわれます。
今回の磯崎新の展覧会は、その建築分野での第1回のイベントとして開催されます。展
覧会名の“RE-RUINED HIROSHIMA”は、1968年のミラノ・トリエンナーレのため に制作されたインスタレーション“Electric Labyrinth”に用いたフォトモンタージュのタイトルからきています。この作品に含まれている、建設と破壊を同時に想起させるコンセプトは、一貫して磯崎のプロジェクトや展覧会に現れているものです。
今展覧会では、その“Electric Labyrinth”を会場にあわせ新たに制作しなおし、中核となる作品として展示されます。
会場内では、上記インスタレーションに加えて磯崎の60年代から現在に至る作品を系譜ごとに紹介します。コンセプトに対する具体的なイメージを提示することで、磯崎新の半世紀を俯瞰できるような展示となるでしょう。
上記モスクワでの展示には、“Electric Labyrinth”のほか、作品パネル、版画(シルクスクリーン、銅版画)、映像などが使われる予定です。現時点では未定ですが、いま制作している《百二十の見えない都市》の中の数点の試刷り作品を出品するかも知れません。その場合は、予約購読者の皆さんにお届けする以前に、モスクワで一部が発表されることを、どうかご了承願います。
もうひとつ、予約購読者の皆様には嬉しいニュースがあるのですが、まだ詳細を発表できる段階ではなく、次回のお楽しみということにさせて下さい。
最後に人事のご報告です。この企画の第一期からというより、1998年に始まった連刊画文集《栖十二》から事務局を担当し、画文集の編集に携わってきた栗原佐和子が、このたび退職することになりました。実は昨年春から体調を崩し、一年間療養につとめてきたのですが、なかなか復調がならず、誠に残念な結果になってしまいました。後任のスタッフについてはあらためてお知らせ致します。
皆様にはどうか変わらぬご支援とご理解をお願い申し上げます。
季節柄、どうぞご自愛下さいますよう。
敬具
2005年6月14日 ときの忘れもの 綿貫令子 綿貫不二夫
◆『百二十の見えない都市』第二期予約購読者の皆様へ
磯崎新さんが『百二十の見えない都市』第二期の構想を考えておられた、ちょうどその時期と重なって、磯崎アトリエはたいへんなことになっていました。とりわけ海外のプロジェクト群が実現に向かって形をとりはじめ、それと併せてここ数年の仕事をふり返ってみると、磯崎さんの初期のプロジェクトの数々が突然現実のものに転じつつあるような様相を呈してきたのです。
数年前からのいくつもの展覧会や本の刊行で、現代にこそ強いメッセージを発信した「アンビルド」が、その構想をより生々しい姿で建てはじめられる。そういう事態になってきました。
「次のシリーズは、建設が未完に終わった都市を取り出そうと考えています」と、磯崎さんは連刊画文集第二期刊行概要に予告され、具体的な十二の未完都市の名まで列挙されていますが、今回は予定を急遽変更し、いま磯崎さんが日々の実務においてもっとも腐心されている、これらの実現しつつあるプロジェクト群から遡って、初期に描かれた、あの「孵化過程」から始まる一連の「アンビルド」の図像のいわば定本を、第二期十二都市に当てることにしました。
これらの図の多くはよく知られています。印刷メディアや展覧会のパネルにも屡々引用され、あるものはその後磯崎さん自身の手が加えられていくつかのヴァージョンがあります。今回はアトリエに保管されている原図、あるいはもっとも原図に忠実な姿をとどめている資料を選び、磯崎さんにそのひとつひとつを再吟味していただきながら、版を起こし刷り上げることを目指しています。流布されている図像を、この画文集において元に戻し記録する。そういう意味での決定版になると思います。
予約されている皆様の御理解を得られれば幸いです。
2005年6月
磯崎新連刊画文集『百二十の見えない都市』
企画編集 植田 実