小野隆生の「断片」をめぐって
その15.その15.「黒」という色彩をめぐって
連載の最終回となる今回は、小野作品のなかの「黒」の色彩について思いをめぐらしてみようと思います。「断片」の作品に限らず、黒からグレー、白にいたる、白黒写真のような抑えられた色彩によって構成された小野の絵画が、なぜ私たちの心をとらえるのかということを常々考えていました。
小野が描くほとんどの人物は、黒い服を着ています。最も顕著なのが、12人のモルタッチ家の人々を描いた作品群です。男性は黒いスーツに黒いネクタイ、靴ももちろん黒です。その中で、襟元、袖口、胸元のポケットチーフの白が、画面をキリリと引き締めています。男性にしても女性にしても、黒を身にまとっていればこそ、白い肌の色と、その中のほのかな赤みを、ごく自然なかたちで感じ取ることができるように思えるのです。
小野の黒の使い方は、エドゥアール・マネの絵(ベルト・モリゾの肖像画など)に見られるような、これでもかと言わんばかりの強烈さはありません。それはむしろ「源頼朝像」(1)の黒い衣装から受ける印象に近いように思われます。
先日、ハンマースホイというデンマークの世紀末を代表する画家の展覧会(2)に行って来ました。見ているうちに、絵の中の黒衣の女性、そしてグレーを基調とした抑えられた色彩が小野作品と重なったのです。9月に開かれた小野の新作展でのグレイッシュな作品群は、彼の「黒」の表現の幅の広さをうかがわせるものとして、興味深く拝見しました。かくして、絵画の中の「黒」をめぐる思索は、これからも続きそうです。
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(1)小野隆生展図録(池田20世紀美術館)p66-p67参照。
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(2)「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展 9月30日?12月7日 国立西洋美術館
(2008年9月30日 いけがみちかこ)
*掲載図版は『小野隆生新作展2008』p.5
「船が見える場所II」2008年 油彩・画布 170.0×60.0cm
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