池上ちかこのエッセイ《小野隆生の「断片」をめぐって》

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小野隆生の「断片」をめぐって 第4回〜池上ちかこのエッセイ

小野隆生の「断片」をめぐって
その4.傘---散歩の途中の拾い物
小野隆生 靴、帽子、シャツなどとちがって、傘は身体から少し離れた存在です。
 ここに描かれた「断片」としての傘は、画家の長年の愛用品というよりも、まだ出会って間もないよそよそしさを感じさせます。といっても、これはまったくこちらの勝手な見方ではありますが。私が想像するに、この傘は拾い物ではないかと。画家はよく散歩の途中で拾い物をするそうです。それは、実際に何か物体を拾うこともあれば、眼で拾うとでもいうのでしょうか、カメラのシャッターを押すように、ある場面を切り取ってそれを心に刻みつけることもあります。
 この傘は当然、前者です。石造りの建物の壁にそっと立て掛けられていたものです。
 傘は持ち主をずっと待っていたのですが、一向に現われる気配がありません。そこに偶然画家が通りかかったというわけです。この傘の背後には、雨に濡れた石畳の路がどこまでも連なっているのが見えます。それは画家の散歩の軌跡でもあるのです。
 (2008年7月15日 いけがみちかこ)

*掲載図版は小野隆生雨の降る路上で U池田20世紀美術館カタログno.27
1998年 テンペラ・板 148.0×47.0cm



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